アパレル業界の商品企画は流行やセンス・感覚で行うものと捉えがちですが、繊維の特性毎に注意すべき一定のルールがあることをご存知ですか?
「繊維製品品質管理士(TES)」は製品のトラブルを未然に防ぐ繊維のプロフェッショナルとして活躍するための資格です。
MD(マーチャンダイザー)やデザイナーなど総合職・企画職を目指す場合に役立つ資格であり、業界人の方にもスキルアップのためにおすすめしたい資格です。
それでは「繊維製品品質管理士(TES)」の詳しい内容を確認していきましょう。
セレクトショップの店頭に並んでいる商品は、企画、製造されて店頭に並ぶまで多くの人たちが関わっています。 アパレル業界には多くの職種があり、中にはあまり知られていないものもありま[…]
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◇◆繊維製品品質管理士(TES)とは
繊維製品品質管理士(Textiles Evaluation Specialist)とは、繊維製品の品質管理に関する専門知識を有する者に与えられる資格です。
■TESを必要とする業界・理由は?
アパレルなど繊維製品を扱う業界人必携の資格として毎年2,000人を超える受験があります。
資格取得者で最も多い業界はアパレルですが、繊維製品の材料となる素材メーカーやテキスタイルメーカー、生産に関する知識を必要とする商社、百貨店やインテリア、クリーニング業界など様々な業界にTES資格取得者が存在しており、活躍の場が増えています。
その背景には消費者の成熟化が挙げられます。
モノに溢れた社会で暮らす現代の消費者は、自身の期待を超える商品を望んでおり、品質に関する要求も日々高まっていますので、商品を生み出す業界人としてあらゆる品質問題を想定できる高度な専門知識を持つ必要があります。
◇◆取得するメリットは?
繊維製品を取り扱う業界へ就職や転職を考えている場合、中でも品質管理に関連した職業を目指す場合は大きなアピールポイントとなります。
資格を保有することで品質や技術の面で大きな安心感を与えることができるため、企業によっては社員のTES取得を推奨している所も多くあります。
受験料や受験対策講座の補助、昇格や資格手当など人事制度に採用するなど大きく評価しています。
◇◆試験の内容と難易度は?
他のファッション系の資格に比べるとセンスや技術よりも知識を必要とする試験内容で、合格率はそれほど高くありません。
しかし、ファッションに関する予備知識の浅い方でもしっかりと対策を取れば取得が可能です。
これから、実際にTESを受験した体験をもとに、試験の内容や対策方法についてお伝えしていきます。
■試験の概要
資格種別 :民間資格
主宰 :一般社団法人日本衣料管理協会
試験科目: 短答式試験(3科目) 記述式試験(2科目) ※ 試験時間は各科目60分。 ※ 100点満点中60点で合格判定。
試験日程 試験日: 7月中旬の日曜日 願書の受付: 5月1日〜20日 試験結果発表: 9月中旬 認定書交付: 11月初旬
試験会場 :東京・名古屋・関西(京都)・福井・倉敷・福岡
受験資格 :国籍・学歴・職業・性別等を問わず誰でも受験可能 /試験は全て日本語
受験料 新規受験者: 14,300円 /継続受験者: 11,000円 ※ 免除判定申請料: 6,600円 ※ 登録料: 12,100円(合格した場合)
■試験の内容
TES試験科目について
基礎知識を問う短答式試験と応用能力を問う記述式試験に分かれます。
試験当日は各科目60分の間に休憩30分を挟みながら5科目全ての試験を行います。
9時ごろ〜17時ごろまで試験が続きますので集中力と体力が必要です。
出題範囲は以下の通りです。
《短答式試験》●繊維に関する一般知識
1)繊維の種類と性質 /2)糸、布地等の種類・製造・性質 /3)染色・加工
●家庭用繊維製品の製造と品質に関する知識
1)衣料品等の企画・設計、製造 /2)衣料品等の要求項目と消費性能および試験法/ 3)品質管理と品質保証
●家庭用繊維製品の流通、消費と消費者問題に関する知識
1)消費者行動とその調査方法/ 2)消費者問題と消費者政策 /3)経済の変化と衣料の流通・消費 /4)衣料品等の消費と消費者苦情、環境問題
《記述式試験》
●事例
事例の試験では、繊維製品の品質・性能に関する消費者苦情の発生を未然に防止するための製品企画および品質管理に関する応用能力の有無を問われます。
評価は、苦情発生原因の究明、再発防止策など問題解決の的確性に主眼をおかれています。
●論文
論文の試験では、社会および繊維産業の現状の理解のうえに、TESとして必要な見識を問われます。
評価は論点の的確性、内容の深さおよび論旨の一貫性主眼がおかれています。
出典:一般社団法人日本衣料管理協会
■試験科目の有効期限
TES試験では合格した科目は次の年から数えて3年間有効となる「試験科目の取りだめ方式」を採用しており、4年間かけて5科目を段階的に取得することも可能です。
事例の試験では短答式試験3科目の総合的な知識を必要としますが、それ以外の科目であれば「試験科目の取りだめ方式」を活用することもおすすめできます。
5科目のうち「繊維に関する一般知識」には試験免除の制度が設けられています。
TESと同じ一般社団法人日本衣料管理協会が主催する衣料管理士資格を有する場合、受験料の他に免除判定申請料6,600円がかかりますが、「繊維に関する一般知識」の科目合格と同じ扱いを受けられます。
※ 2020年より、「学歴免除」および「職歴免除」の一部免除制度が廃止となりました。
これに伴い、2020年以前に認められた「学歴免除」および「職歴免除」は、合格扱いの有効期限を2022年の試験までに変更となっています。
■TES試験の合格率
合格率は例年20%前後で高くはありませんが、前述の「試験科目の取りだめ方式」制度があるため科目を絞って計画的に合格していくことも可能です。
【2018年TES試験結果】
合格者数386名 /出願者総数2,340名/ 合格率16.5%
【2017年TES試験結果】
合格者数592名/ 出願者総数2,600名/ 合格率22.8%
■試験の日程・会場
試験日: 2020年7月12日(日)
願書の受付: 2020年5月11日(月)〜30日(土)
毎年4月1日頃に公式サイトで概要が発表され、5月の指定された期間に願書を提出する必要があります。
※例年ほとんど同じ日程で試験が行われます。
試験会場/2020年度TES試験会場は以下の通り
東京: 文化学園大学
名古屋: 名城大学 ナゴヤドーム前キャンパス
関西: 京都女子大学
福井: 福井大学 文京キャンパス
倉敷: 倉敷ファッションセンター
福岡: 福岡ファッションビル
※開催年度により会場が異なる場合があります。
合格発表/2020年度TES試験合格発表の日程は以下の通り
試験結果発表: 2020年9月中旬
認定書交付: 2020年11月1日(日)
願書提出の際に指定した住所に合否判定の通知書が届きます。
不合格の場合は通知書のみのため薄い封筒、合格している場合は資格登録の手続き書などが同封されているため分厚い封筒が届くと言われています。
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◇◆試験のおすすめ勉強法
それでは、TES試験を受験する場合の勉強法を紹介します。
短答式試験は、選択肢や語群から解答を選ぶ穴埋め問題・問題文の正誤を判断する問題で構成されています。
選択肢や語群の数字を書いていくだけなので単語や漢字を正確に覚える必要はありません。
しかし、文章をよく読み込まないと反対の回答をしやすい「穴埋め箇所に対して3倍程度の語群から選ぶタイプ」や、丸暗記していないとミスが大きくなる「穴埋め箇所と同数の語群から選ぶタイプ」の出題傾向になっているので、過去問をこなすだけでは合格は難しいでしょう。
まずは過去問で出題傾向を把握し、その後は公式テキストを見て出題されそうな範囲を丸暗記していく必要があります。
特に表やグラフなどで表される部分は重点的に因果関係を把握し、丸暗記していくと良いです。
また、家庭用品品質表示法が変わった後などは洗濯表示の問題が出やすいなど、ある程度の時事問題も出題されます。
事例
記述式試験では特に「事例」の試験の難易度が高いとされています。「事例」では短答式試験の「繊維一般」「製造・品質」「流通・消費」の知識すべてが必要になるためです。
公式テキストの「繊維製品の品質苦情ガイド」をよく読み、過去問で実際の問題と解答に慣れることが大切です。
問題は消費者からの苦情に対する対応を問うもので、問題A・問題Bから自分の得意な問題を選択することができます。
難易度の差はありませんが、問題の苦情の発生原因は「素材」「染色・加工」「縫製」「消費者の取扱い」のうち2つが複合されているので、より詳しい知識を持っている原因があると詳しく回答しやすいです。
苦情の原因究明のための試験名や試験方法を問う問題は必ず出ますので、正しい試験を回答できるように準備しておきましょう。
原因究明と再発防止策に関するまとめも400字〜800字で回答できるようにしておきましょう。
論文
「論文」の試験では、過去問から出題傾向を把握し、論題の趣旨にあった解答であれば合格となります。
字数は600字〜800字でまとめる必要があり、こちらは単語や漢字のミスも減点対象になりやすいので自分の理解している言葉に置き換えて記入する方が無難です。
製品品質管理士の立場に立った回答であるかどうかが大切です。
■おすすめテキスト&受験対策講座
問題文の文章は公式テキストの文章に似ているので、公式テキストでの勉強をおすすめします。
解答に影響する重要な改訂が行われているので、なるべく最新のものを用意してください。
テキストや過去問は公式サイトから注文する必要があります。
一年前の過去問に限り、公式サイトで無料公開されています。
大学のほか、繊維・アパレル・消費生活団体などの各協会でTES対策講座を開講している場合があります。
公式テキストを元にした講座が開かれており、参加費は協会員や学生であれば割引が適応される場合がほとんどです。
わかりにくい箇所を講師に直接聞くことができる良い機会です。
◇◆合わせて取得したい資格
日本衣料管理協会では『繊維製品品質管理士』の他にテキスタイルアドバイザー(衣料管理士)の資格認定も行っています。
テキスタイルアドバイザーは生活に欠かせないファッションアパレルからインテリア、雑貨等のあらゆる繊維製品に関する知識のスペシャリストです。
希望する場合はTESと合わせて取得すると良いでしょう。
気になる方はこちらの記事をぜひご参考ください。
テキスタイルアドバイザー(衣料管理士)は一般社団法人である日本衣料管理協会が認定する民間資格で、私たちの生活に欠かせないファッションアパレルからインテリア、雑貨等のあらゆる繊維製品に関する知識[…]
◇◆TES資格を取得するメリット
TES資格の認知度 TES資格は他のアパレル系の資格に比べて一般的な認知度の低い資格ですが、繊維業界やアパレルメーカーでは専門性の高い資格であると認識されています。
企業によっては資格を必須とする所もあり、業界人必携の資格とも言われています。
■取得者の就職・転職
繊維製品を扱う業界へ就職・転職する際、TES資格は基礎知識のある即戦力としての証明となり得ます。
他にも営業・生産管理・MD・デザイナーなど様々な職種にTES資格保有者が広がるなど業界内での注目度が高まっており、挑戦する姿勢があれば評価されるでしょう。
■取得者の昇給と独立
昇給と手当
企業によっては社員の昇格や資格手当など人事制度に採用する場合があるようです。
TES取得者の独立
個人のブランドを立ち上げたいと考える場合も、TES資格保有と同等の知識があると良いでしょう。
素材や縫製、流通方法の選択、消費者への注意喚起の方法などを学ぶことであらゆる品質問題を防止する知識がつき、誠実なブランド経営ができるようになります。
◇◆TES取得者のコミュニティ活動「TES会」
TES資格取得後に参加できる「TES会」と呼ばれるコミュニティ活動を行っていることがTESの特徴です。
会員は業界の川上から川下まで様々な業種で活躍するプロフェッショナルで構成されており、地域ごとに支部に分かれて活動を行っています。
他業種で活躍するTES会員同士の繋がりや経産省との連携ができ、新しい素材や機能の勉強会に参加できるなど資格取得後も自己研鑽できる環境が用意されているなどの魅力もあります。
◇◆TES資格【まとめ】
いかがでしたでしょうか。
合格率は例年高いとは言い難いですが、アパレル業界に所属している方や独立を目指している方は、必ず取得しておきたい資格の1つです。
私自身も論文で少し苦戦しましたが、1回目で合格できたのでしっかり対策して臨めば決して難しい資格ではありません。
ぜひ繊維製品品質管理士資格をゲットして、より業界内でスキルアップやキャリアを積んでいって頂けると幸いです。